関東大震災での虐殺事件はなぜ起こったのか?

日韓交流の歴史と文化
井川洗厓「夜警団」(『大正震災画集』絵巻研究会-1926年より)

巡査と自警団と囚人が一緒になって殺人

 去る9月2,3日の両日、昼夜に亙って横浜市中村町中村橋派出所付近を中心として根岸刑務所を解放された囚人20余名と同町自警団が合体し、××110余名を殺害し、遂には同所を通行した避難民や各地から来た見舞人10名を殺し、所持の金品を奪った上、死体は或は針金で両手両足を縛って大岡川へ投込み、或は火炎の中へ抛げ焼却して犯跡を隠蔽せんとしたが、奇怪なのは某署の警官数名も制服帽でこれに加わり帯剣を引抜いて傷害せしめたという噂で、被害者中には鶴見町から見舞に来た2名の外、元自治クラブ書記吉野某2も無残の死を遂げている。〔出典〕『報知新聞』1923年10月17日

注釈

  1. ××‥「鮮人」(朝鮮人)。朝鮮人虐殺事件については、10月20日まで報道管制が敷かれていたため、新聞は伏字で報道していた。
  2. 憲政会神奈川県支部書記の吉野菊四郎は、9月4日正午ごろ、中村町自警団に捕らえられた。友人の岩本常信が身分を証明したが、聞き入れられず、棒をもって殴打殺害された。

流言と虐殺はなぜ始まったのか

 9月1日夜、丘の上には4万人の避難民がひしめいていました。丘1の下では石油倉2が暗闇の中で燃え続け、近くの横浜刑務所3からは囚人たちが逃げ出したという不穏な知らせが飛び込んできます。何よりも、山口正憲と横浜震災救護団の登場は、他の地域になかった要素でした。赤い三角旗を掲げて集団で商店に押し入る彼らの存在自体が、朝鮮人流言に説得力を与えたでしょうし、後には彼ら自身が朝鮮人流言を信じて行動するようになりました。
 しかし、もう一つ、最も重要な疑問が残されています。「朝鮮人殺害さしつかえなし」。平楽の丘で生まれ、横浜全市に広がり、最悪の事態を引き起こしたこの言葉が、なぜ、どのように現れたのかということです。(中略)地域の証言には、警察官が流言を広げ、「朝鮮人が来たら殺してください」と虐殺を煽っていたことや、警察署が交番が暴行や虐殺の場となっていたというものがあります。(中略)
「さっきにげてきたところへ行くと、おまわりさんが、朝鮮が刃物をもってくるから来たらころしてくださいと言って来ました。僕はそれを聞いた時びっくりしました。」(南吉田第二小学校 6年)(中略)
「朝鮮人が耳からえりの所にかけて切られて、肉がでて血がだらだら流れて居て、おかしな言葉でわいわい泣いて行って、警察へ連れて行って、大ぜいの人々にさんざんにひどい目にあはされたりして、とうとうころしてしまひました」(石川小学校 高等科2年)
〔出典〕なぜ後藤周『それは丘の上から始まった~1923年 横浜の朝鮮人・中国人虐殺』(ころから 2023年)pp.102-105

注釈

  1. 丘‥横浜市南区にある平楽の丘。後藤周氏の研究によれば、関東大震災で朝鮮人・中国人虐殺事件を引き起こした流言(デマ)は、この丘から始まったという。
  2. 神奈川県揮発物貯庫
  3. 横浜監獄署

河目悌二画「虐殺絵」(国立歴史民俗博物館蔵)

第四区自衛団支部(『関東大震災と横浜』横浜開港資料館蔵)

関東大震災の中国人犠牲者

元号 西暦 出来事
明治32 1899 7月、居留地が廃止され、内地雑居(外国人の居住の自由)が認められる一方、労働者の居住・就労は行政官庁の許可制となる(明治32年勅令第352号「条約若ハ慣行ニ依リ居住ノ自由ヲ有セサル外国人ノ居住及営業等ニ関スル件」)
大正11 1922 9月、王希天らが僑日共済会を結成
12 1923 2月、横浜市高島町貨物駅前広場で、中国人労働者と日本人労働者が衝突(高島町事件)
9月3日、東京府南葛飾郡大島町(現江東区大島)で、「支那人及朝鮮人三百名乃至四百名三回に亘り銃殺及撲殺」(警視庁広瀬外事課長話)
9月12日、王希天が軍人に斬殺される
10月14日、王兆澄が上海の新聞に「日人惨殺華工之鉄証」を発表

参考資料

  1. (映像資料)『南吉田第二尋常小学校震災綴方帳』(開港資料館蔵)→映像資料
  2. 関東大震災当時の横浜→横浜地図データベース、現在との対照地図→古今マップ
  3. 後藤周『それは丘の上から始まった~1923年 横浜の朝鮮人・中国人虐殺』(ころから 2023年)
  4. 姜徳相・山本すみ子編『神奈川県関東大震災朝鮮人虐殺関係資料』(三一書房)
  5. 坂井俊樹「虐殺された朝鮮人の追悼と社会事業の展開」(『歴史評論』第521号)
  6. 「関東大震災関係 2中国人等被害関係」(日本外交文書デジタルコレクション大正12年(1923年)第1冊
  7. 伊藤泉美「関東大震災と横浜華僑社会」(横浜開港資料館編『横浜開港資料館紀要』第15号、1997年3月所収→国立国会図書館デジタルコレクション
  8. 新井勝紘『関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く』(新日本出版社 2022年)

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